中小企業の「事業継続力強化計画」 有事の備え コロナ禍で活用


 感染力が強い新型コロナウイルスのオミクロン株の流行で、感染者や濃厚接触者が急増し、中小企業の経営の現場にも影響が出ている。こうした中、地震などの自然災害をはじめ、さまざまな突発事項に備えてつくる「事業継続力強化計画」の効果が注目されている。

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伊香保温泉 ホテル松本楼/街ぐるみで計画策定を

 「石段街」で知られる群馬県伊香保温泉。日本有数の温泉街の玄関口に位置するホテル松本楼が事業継続力強化計画を策定することを決めたのは、コロナ禍で緊急事態宣言が発出され、2020年4月から2か月間の休業要請を受け入れた時期だ。若女将の松本由起専務は「休業期間はふだんできないことに挑戦する時間にしたかった」と振り返る。

 事業継続力強化計画を策定する中で、「災害時には従業員、お客様、近隣からの避難者らの3日分の食料と水を確保」といった具体的な数値とともに必要な対策が分かったという。地元の渋川市と防災協定を結び、東日本大震災や新潟地震でも建物の一部が被災して対策をとってきたが、自社の防災リスクの「見える化」ができたという。
 災害時に少ない社員でオペレーションを維持するために従業員一人ひとりがさまざまな仕事ができるようにする対策も、コロナ禍のシフトでも活用できている。現在、コロナ感染対策として混雑緩和も重視し、客室の各部屋にタッチパネルを配備し、2種類の泉質が楽しめる大浴場の混雑状況が一目でわかるようにしたほか、フロントに自動精算機も導入した。

大浴場の混雑状況がわかるタッチパネルについて説明する松本楼の松本由起専務

 松本楼は、「赤ちゃんからお年寄りまでが過ごしやすい旅館」として経営方針でSDGsの目標達成にも注力するが、「事業継続力強化計画」の策定は、経営を持続可能にする力を強化し、SDGsの考え方にも通じるという。今後は、温泉街の他のホテルなどにも策定を呼びかける考えだ。
 松本専務は「地域全体で取り組めば、旅行先としてお客様に安心感を持ってもらうことができる。防災とSDGSの両輪で伊香保温泉の魅力をさらに高めていきたい」と語る。

自動車整備業 豊田モータース/同業者との連携生きる

 「コロナ対策はどうすればいいのか」。岐阜県大垣市の自動車整備業、豊田モータースの豊田典義社長が「事業継続力強化計画」の存在を知ったのは、2020年3月に顧客の家族がコロナウイルスに感染したことがきっかけだ。「自動車整備の間に貸し出していた代車はどうするか」など前例がない未知のウイルスへの対応に追われた。非常時に事業を継続させるための準備の大切さを実感し、感染症対策に特化して「事業継続力強化計画」を策定することにした。

豊田モータース・豊田典義社長

 自動車整備業は、ほとんどが手作業で行っている。「非常時に車検の期日をどう守るか」。お客様に迷惑をかけないために豊田社長が目指したのは、地域の同業者が連携して業務を補完し合う「連携型」だった。経営者同士の交流もあることから、地域の同業者が所属する「西濃地区ロータスクラブ」の7社に、「連携事業継続力強化計画」の策定を提案した。感染症対策として事業所を閉鎖した際に顧客や他社と連絡をとる役割を担うキーマンの社員を各社1人ずつ決めた。計画策定後、7社で人手が足りない時に連携し合うなどの動きも出てきた。
 現在、オミクロン株が流行する中でも、豊田社長は「連携事業継続力強化計画のおかげで、いざという時の備えはできているという安心感がある」と語る。

豊田モータースの自動車整備工場(岐阜県大垣市)

事業継続力強化計画
国が後押し、認定企業に支援も



 中小企業の防災・減災に向けた活動を後押しするために、中小企業が策定した防災・減災の事前対策を国が「事業継続力強化計画」として認定する制度が2019年に創設された。2020年10月から感染症対策に特化した「事業継続力強化計画」の認定もスタートした。認定を受けた企業は、低利融資などの金融支援をはじめ防災・減災設備に対する税制の優遇措置、補助金の優先採択などの支援措置が受けられる。計画は1社による「単独型」と複数の企業が連携してつくる「連携型」の2種類。「連携型」は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が策定を支援している。地域をはじめ、業種やサプライチェーン内などさまざまなつながりで企業が連携し、より効果的な対策ができると注目されている。認定企業数は3万5590件(2021年11月時点)。災害など非常時に事業を継続、復旧するために必要な項目を盛り込んだ事業継続計画(BCP)よりも簡単に策定できる。

専門家に聞く

 「事業継続力強化計画」の策定では、注目されている連携型を中小機構が支援している。デロイトトーマツグループの玉野真也シニアマネジャーは、現在のオミクロン株の流行で企業の現場の人員体制に影響が出ており、「出社できないという点で災害時と同じ状況にある」と説明する。こうした中、「事業継続力強化計画」策定は、「有事に備えて代替生産など地域の連携による助け合いモデルを構築したり、人材のマルチスキル化による人員体制のリスクを軽減したりできる」といったメリットがあるという。
 また、「日本経済の大部分を中小企業が支えており、有事に事業が継続できなくなるなど一つの歯車が狂うと全体に大きな影響を及ぼす事態となる。中小企業に事業継続力強化計画策定の動きが広まることで、各企業の有事の際のリスクを減らすことができ、日本経済の強靭化につながる」としている。

中小機構「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」の詳細はこちら

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